意思決定の疲労と対策
経営者や責任あるマネージャーにとって、最も大事な仕事は“決定”だといっても過言ではないでしょう。
日々、小さなものから大きなものまで何らかの“決定”をしています。
私も平社員の頃は「決定して指示するだけなんて楽すぎる」と思っていましたが、実際にその立場になってみると全然楽じゃないということを思い知らされています。
人間が一日に下すことができる意思決定の数には一定の制限があり、その制限を超えると決定の質が低下したり、選択を避ける傾向が生じたりすると言われています。
これを「意思決定の疲労」と言うらしいです。
この現象は、アメリカの社会心理学者、ロイ・バウマイスターによって提唱され、その著書の中で、人間が意思決定をするたびに自己制御や意志力といった「精神的エネルギー」が少しずつ消費されていく、と述べています。
これを聞くと、多くの経営者や責任あるマネージャーは「そうそう!」と納得すると思います。
意思決定の疲労がもたらす影響
経営者やマネージャーが下す決断には、経営戦略、製品開発、マーケティング、財務管理、人材採用など、会社に大きな影響を与える可能性があるため、意思決定の疲労は侮れない問題です。では、意思決定の疲労がもたらす影響にはどのようなものがあるでしょうか。
決定の質の低下:意思決定の疲労が進むと、適切な判断を下す能力が低下していきます。疲労が進んだ状態での、重要な決定は避けたいですね。
選択回避:意思決定の疲労が進むと、選択を避けたり延期したりする傾向が生じます。質の低い判断をするよりはマシかもしれませんが、問題の解決を遅らせたりする可能性がありますね。
衝動的な決定:意思決定の疲労が進むと、衝動的な決定を下す可能性が高まります。よく考えずに高リスクの投資を行ったり、計画を立てずに新たなプロジェクトを開始するなどです。
意思決定の疲労の管理と対策
では、意思決定の疲労を軽減するためにはどうしたら良いでしょうか?その対策を列挙してみました。
ルーチン化:一日に下すことができる意思決定の数には一定の制限があるなら、毎日行う決定はできるだけルーチン化することで、優先順位の低い決断の回数を減らそうということです。例えば、毎日同じ服を着る、同じ朝食を食べる、毎日のタスクの実行時間を固定するといったことです。
スティーブ・ジョブスやマーク・ザッカーバーグ、バラク・オバマが有名ですね。彼らは自分の仕事に集中するために、自分が毎日何を着るかなどの「無意味な」決定をできるだけ減らすようにしていると述べています。
私も、昼食をどこに食べに行くのか考えるのが面倒くさいので、毎日持参したおにぎりで済ませています。
優先順位の設定:一日の初めに最も重要な決定を下すことで、意思決定の疲労が最も低い状態で重要な決断を行うことができます。
私も、翌日又は翌週に重要な意思決定事項を手帳に書き、その日の早いうちにその意思決定を完了させるようにしています。また1日の意思決定量を欲張らず、重要な意思決定は計画的に翌日などに分散させるようにしています。
体調を整える:心身ともに体調が悪いと、そもそも意思決定自体がしんどくなりますね。これは意思決定にとどまらず、仕事で良いパフォーマンスをするには必須です。体調を整えるには、充分な休息と睡眠、バランスの良い食事が大事なのは言うまでもありません。定期的な運動やマインドフルネスなどを取り入れてみるのも良いですね。
任せる:可能ならば、他の信頼できる人に決定を任せることです。ある程度組織が大きくなったりすると、些末なことまで全部自分で決めるなんて無理ですよね。権限委譲の仕組みなどを上手に作れれば可能になるし、意思決定の疲労を軽減する有効な手段となります。
データやツールの利用:ビジネスにおける意思決定を支援するツールやデータ分析を利用することで、直感や感情だけに頼る決定から離れ、客観的な根拠に基づく決定を行うことが可能になります。決定の質の低下を防ぐのに役立ちます。
ちなみに、有名人の対策としては、Amazonのジェフ・ベゾスは、「レガシーメーター」というものがあります。一日の時間を最も価値ある作業に割くため、自身の時間を「Type 1(大きな決断、新しい戦略など)」と「Type 2(日常的な決定や操作など)」の二つのタイプに分け、Type 1の決定に専念する時間を多く確保することで意思決定の疲労を軽減しているそうです。
また、投資家のウォーレン・バフェットは、自身の日程を極力空にして重要な思考に時間を使うと述べています。そして、何に「ノー」と言うかが自身の時間を管理する上で重要であると述べています。
これらのリーダーは、意思決定の疲労と向き合うために、自身にとって最も価値ある時間を過ごすため、戦略的に取り組んでいるようです。どのような取り組みをするかは、個々の状況により変わるかもしれませんが、全てが共通して目指しているのは、一日のエネルギーと時間を最も重要な決断に向けることです。
あなたは「意思決定の疲労」の管理と対策に取り組んでいますか?
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山浦 仁 / ウェブラボ株式会社 代表取締役
大学卒業後、大手Web制作会社にてWebディレクターとして数多くの国内大手企業のプロジェクトに携わる。2004年にウェブラボを設立。2007年には中小企業向けのWeb制作ノウハウとCMS機能をパッケージにした「サイト職人CMS」を発表。現在は、中小企業だけでなく大手企業からの引き合いも多く、Webコンサルタントとしても活動中。上級ウェブ解析士。全日本SEO協会認定コンサルタント。