Web制作でオリエンシートを作る理由
2015.04.24
Web制作の外注にあたって、オリエンシートは必要ですか?
オリエンシートにはどんなことを書いたら良いですか?
オリエンシートは絶対に必要です。理由は3つあります。
そしてオリエンシートに記載する定番の項目は...
オリエンシートは、確かに絶対に作った方が良いのです。
なぜなら、次のような理由があります。
[理由1]
自分たちの頭の整理、共通認識を持つため
Web制作会社に伝えるべき項目を書き出してみることで、
「本当にこれで良かったっけな?」とか
「念の為、上司にも確認しておこう」という項目が出て来るものです。
後から、「こういうことをやりたかったんじゃない」とか社長や上司から言われるのは最悪ですよね。
[理由2]
複数の業者に外注する場合は、各業者へのオリエンのクオリティを一定にできる
これは複数者にコンペを依頼する場合ですが、オリエンシートがないと、毎回口頭のみの説明になります。そうすると、A社には伝えた情報がB社には伝え忘れていたとか、A社とB社に伝える時に微妙な言い回しが違ったことで異なる解釈をされてしまう、というようなことが起こりがちです。事前にまとめておけば、そのような抜けや解釈の違いを最小限に防ぐことができます。
[理由3]
業者からの提案のクオリティを高めることができる
そもそも依頼しようとしているWeb制作会社は、御社の業界は初めてかもしれません。もちろんオリエンシートをもらわなくても、自分たちで調べることはできますが(できない情報もあるけど)、最初にきちんとオリエンシートをもらうことで、御社への提案資料を作っていくにあたってのスタート地点が変わります。
オリエンシートをもらうことで、調査にかかる時間を多少なりとも短縮して、その分、提案内容をより良いものに詰めることに使えるかもしれません。欲しかった提案が抜けるということも防げます。
結局、良い提案書が出てくるかどうかは、もちろんWeb制作会社の力量にもよりますが、オリエンシートの影響も大きいのです。経験豊富な発注担当者は、この辺りをよく分かっていて、どのWeb制作会社が見ても、同じ理解をするであろう隙の無いオリエンシートを出してきます。経験的に、オリエンシートの影響を良く分かっているからだと思います。
我々もオリエンシートを見ると、その担当者がどの程度経験がある人なのかが何となく分かります。
オリエンシート定番項目
では、具体的に、オリエンシートにはどのような情報を掲載していけばよいのでしょうか?
1.Webサイトの概要
既存Webサイトのリニューアルなのか、それとも新規サイトなのか。
既存Webサイトなのであれば、URLや現サイトの制作年、月間のアクセス数や問合せ数といった現状の数字などを記載します。
新規サイトなのであれば、立ち上げたいWebサイトの内容、どんなことをやりたいのか、決まっていればサービス名などを記載します。
2.その作業を発注するに至った経緯
われわれ受注者からすると、そもそもなぜそんなことをしたいのか分からない時が結構あります。例えば、経営戦略上のチャレンジなのか創立10周年にあたって社長の思い入れなのかお客さんから不便だとずっと言われてきたことなのかWeb制作会社がそのプロジェクトの背景を知ることは必要ないという意見もあるかもしれませんが、Web制作会社の担当者も人間ですから、そのプロジェクトへの背景を知ることでそのプロジェクトへ共感し、より気持ちを込めたプランニングができるのではないでしょうか。
3.商品・サービスの詳細
この情報は、伝え始めるとキリがなく、本気でやろうとすると、コンテンツ制作そのものになってしまうので、既にあるパンフレットや営業用資料などで代替しても構いません。次のような情報は、Webサイトのコンテンツ企画において、重要なヒントになるので、要点だけでもまとめておくと良いです。
- 特徴
- 開発ストーリー
- 主要顧客
- 業界での位置付け
- 競合商品
- 価格
4.(リニューアルの場合)現状のWebサイトにおいて改善したい箇所
外部からは、内部の数字や声というものは見えません。例えば、
- 社長は柔らかい印象のデザインにしたいと思っている
- Webサイトからの問合せは多いけど冷やかし客ばかり
- お客さんからいつも同じようなクレームを受ける
もし提案内容に入れて欲しい改善箇所があるのであれば必ず記載します。
正しい分析である必要はありません。社内でこういう声があがっているというもので構いません。
但し、方向性がいくつか分かれる場合は、意思統一しておいてください。例えば、実務担当者はクールなデザインにしたいけど、社長は柔らかいデザインにしたいと言っている場合は、どちらの方向性で行くのか決めておく必要があります。
また、事前に、お客さんに現在のWebサイトの使い勝手、修正して欲しい点、普段使っているWebサイトなどを聞いておき、それをオリエンシートに反映できれば尚良いです。
それとは別に、Web制作会社が信頼できるパートナーなのであれば、秘密保持契約書などを結んだ上で、一時的にGoogle Analyticsのアカウントを開放するというのも手です。当社はよくクライアントに見せていただきます。それの最大のメリットは、クライアントが気付いていない問題点に気付くことができるという点です。
5.現在のシステム構成
担当者が別の担当者から引き継いだ場合などは、意外と把握していないことが多いです。次のようなことを明確にしておかなければいけません。
- サーバはレンタルサーバなのか専用サーバなのか
- レンタルサーバであれば、契約しているサーバ会社名とプラン名
- 専用サーバであれば、サーバの仕様
- サイトの中でCMSやその他CGIなどのプログラムを利用している箇所はあるか?
- プログラムを利用しているならば、その使用箇所とプログラムの種類、制作した会社と連絡先
サーバがレンタルサーバの場合は、最低年1回は請求書が来るので経理に確認すれば分かります。ついでに年間利用料も把握できます。サーバスペックは年々向上していくものなので、このタイミングでサーバ移転を考えた方が良いということも分かるかもしれません。
専用サーバの場合は、サーバ会社が運用代行している場合と、自社で運用している場合があります。サーバ会社が運用代行している場合はレンタルサーバと同じです。自社で運用している場合は、必ず自社に技術者がいるはずですから、詳細を事前に聞いておきましょう。
6.どんな成果を出したいか
いわゆるKPIです。
例えば、お問合せ数を1.5倍にしたい、お客さんからの苦情数を半分に減らしたい、といった具体的な数値であることもあるし、取引先や求職者の印象を良くしたい、といった数値ではない場合もあります。KPIを事前に設定しておかないと、一通り作業が終了した時に、そのプロジェクトが成功だったのかどうか評価できません。ですから、必ずどんな成果を出したいのか明確にします。数値で表せる成果については、遠慮せずに絶対に記載した方が良いです。
例えば、発注側は問合せ数2倍にしたいと思っているのに、受注側は1.3倍ぐらいで良いと思ってしまうかもしれません。そうしたら、その時点で満足のいくプランがあがってくるはずがありません。
また、よく目標を書かず、やって欲しいことの指示だけを書く企業がありますが、もしかしたら、その目標を達成するためには、指示された内容よりももっと早く安価に目標を達成できる方法があるかもしれません。そういう知見をWeb制作会社から引き出すためにも、絶対に目標は書かなければなりません。
7.目標スケジュール
いつまでに作業を完了させたいのか、そして、いつまでにその成果を出したいのかを書きます。スケジュールについては、書かなくても必ずWeb制作会社から聞かれます。その際に、曖昧な返答にならないよう、きちんとオリエンシートに記載しておきましょう。
たいていは、発注者の方がスケジュールの見込みが甘い場合が多いです。もしそうだったとしても、目標スケジュールを書かなければなりません。
もし、1ヶ月で終わらせて欲しいという要望だったとして、絶対に無理な場合、例えば、主要な部分とそうでない部分をフェーズ分けして、主要な部分のみを1ヶ月で終わらせるようにするなどの提案ができます。
もしオリエンをしてみて、どうもこの目標スケジュールだと厳しそうだなと思ったら、Web制作会社の意見を聞いて、もう一度スケジュールを検討すれば良いのです。
まずは、こちらの希望を伝えましょう。
8.予算
あえて予算を提示しない場合もありますが、限られた予算の中でできるだけ知恵を絞って欲しい場合は、記載した方が良いです。あまりに相場が分からない場合は、事前にいくつかの会社に見積りのみ問い合わせておくなどの調査をしておきましょう。また、Web制作と同時に発生しやすい費用があります。こららが、予算に含まれるのか含まれないのか事前に明確にしておきます。[Web制作と同時に発生しやすい費用]
- サーバやドメインに関する費用
- 写真や動画などの素材に関する費用
- 文章執筆に関する費用
- ロゴやイラスト作成に関する費用
9.その他
下記項目が記載されているとよりWeb制作会社の理解が深まり、より良い提案を引き出せます。
-
業界の知識
業界の歴史、特徴、商慣習、業界最大手や2番手の企業名、
業界の中での自社の位置づけ -
意識している競合他社名
競合他社のマーケティング手法、競合他社の長所・短所
競合他社がウリにしていること -
良いと思っているデザインのサイト
同じ業界ではない業界のサイトが好ましい
特に、デザインの方向性については、最終決裁権者、つまりデザインや出来上がったWebサイトに最終的にOKを出す人と事前に意思統一しておくことは重要です。
私はこれまで、中小企業から大企業まで多くのオリエンに呼ばれていったことがありますが、私たちの目の前で、担当者と最終決裁権者が「いや、これはこうじゃない」といった議論を始めてしまった光景を何度も見てきました。議論といっても、最終決裁権者は上司や社長なので、ほとんどは担当者が一方的に叱られるのですが・・・
しかし、これはまだ良い方で、最悪なのは、デザイン提案や最終確認段階になって、「こうじゃない」となるパターンです。お互いにモチベーションが下がりますし、あまりに修正内容が大掛かりな場合は、修正作業に別途費用がかかる場合もあるので絶対に避けなければなりません。
オリエンシートはWordだろうが、Excelだろうが、どんな体裁でも構いません。また、書いてはいけないことなどの決まりはありません。上記以外にもWeb制作会社に伝えておいた方が良いと思った情報があれば、どんどん記載してしまって構いません。目的は、Web制作会社からより良い提案を引き出すことです。
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山浦 仁 / ウェブラボ株式会社 代表取締役
大学卒業後、大手Web制作会社にてWebディレクターとして数多くの国内大手企業のプロジェクトに携わる。2004年にウェブラボを設立。2007年には中小企業向けのWeb制作ノウハウとCMS機能をパッケージにした「サイト職人CMS」を発表。現在は、中小企業だけでなく大手企業からの引き合いも多く、Webコンサルタントとしても活動中。上級ウェブ解析士。全日本SEO協会認定コンサルタント。