ウェブアクセシビリティ試験の実施に必要な方針について①
2020.03.04 Posted by watanabe.k
ウェブアクセシビリティの規格についての記事は、ウェブアクセシビリティの規格『JIS X 8341-3』の概要について説明しました。
今回は、『JIS X 8341-3』に基づいて試験を行う際に必要な、ウェブアクセシビリティの方針についてご紹介します。
方針を作ることの大切さ
ウェブアクセシビリティ試験を行う際に方針を作らなかった場合、一体どうなるのでしょうか?
デザイナーやコーダーは、ウェブアクセシビリティを特に意識することなく、『ウェブアクセシビリティの4原則とは?①~④』で挙げた問題例のようなデザインを作成したり、コーディングを行ってしまうかもしれません。
また、 ウェブアクセシビリティについての知識が無かった場合、適切な判断が出来なかったり、人によって判断が異なるといったもあります。
このような場合、認識のズレによって後から修正作業が増えてしまったり、最悪の場合納品前ギリギリに対応できない、という事態が起こってしまうかもしれません。
このような事態を避けるため、ウェブアクセシビリティの方針はあらかじめ決めておいたほうが無難です。
何を決めればよいのか?
最低限、「対象範囲」「適合レベル」「対応度」「方針を公開するかどうか」を決めておけば良いでしょう。今回は 「対象範囲」と「適合レベル」 を順番に見ていきます。
対象範囲を決める
姉妹サイトは除外するなど、どこまでが一つのホームページで、どこまでを対象範囲とするのかを事前に決めておきましょう。
適合レベルを決める
『JIS X 8341-3』の適合要件には、A・AA・AAAの 3段階 の「適合レベル」が規定されています。
適合レベルA
レベル A (適合の最低レベル) で適合するには、ウェブページがレベル A 達成基準のすべてを満たすか、又は適合している代替版を提供する。
試験項目としては、以下の25項目になります。
- 1.1.1 非テキストコンテンツに関する達成基準
- 1.2.1 収録済みの音声しか含まないメディア及び収録済みの映像しか含まないメディアに関する達成基準
- 1.2.2 収録済みの音声コンテンツのキャプションに関する達成基準
- 1.2.3 収録済みの映像コンテンツの代替コンテンツ又は音声ガイドに関する達成基準
- 1.3.1 情報及び関係性に関する達成基準
- 1.3.2 意味のある順序に関する達成基準
- 1.3.3 感覚的な特徴に関する達成基準
- 1.4.1 色の使用に関する達成基準
- 1.4.2 音声制御に関する達成基準
- 2.1.1 キーボード操作に関する達成基準
- 2.1.2 フォーカス移動に関する達成基準
- 2.2.1 調整可能な制限時間に関する達成基準
- 2.2.2 一時停止,停止及び非表示に関する達成基準
- 2.3.1 3回のせん(閃)光又はいき(閾)値以下に関する達成基準
- 2.4.1 ブロックスキップに関する達成基準
- 2.4.2 ページタイトルに関する達成基準
- 2.4.3 フォーカス順序に関する達成基準
- 2.4.4 文脈におけるリンクの目的に関する達成基準
- 3.1.1 ページの言語に関する達成基準
- 3.2.1 オンフォーカスに関する達成基準
- 3.2.2 ユーザインタフェースコンポーネントによる状況の変化に関する達成基準
- 3.3.1 入力エラー箇所の特定に関する達成基準
- 3.3.2 ラベル又は説明文に関する達成基準
- 4.1.1 構文解析に関する達成基準
- 4.1.2 プログラムが解釈可能な識別名,役割及び設定可能な値に関する達成基準
画像や音声・映像に関する達成基準や、言語についての達成基準などが設けられていることから、適合レベルAでも最低限のマシンリーダビリティ(機械が読み取れるかどうか)は担保されていることが分かります。
適合レベルAA
レベル AA で適合するには、ウェブページはレベル A 及びレベル AA 達成基準のすべてを満たすか、又はレベル AA に適合している代替版を提供する。
試験項目は以下の13項目です。
- 1.2.4 ライブの音声コンテンツのキャプションに関する達成基準
- 1.2.5 収録済みの映像コンテンツの音声ガイドに関する達成基準
- 1.4.3 最低限のコントラストに関する達成基準
- 1.4.4 テキストのサイズ変更に関する達成基準
- 1.4.5 画像化された文字に関する達成基準
- 2.4.5 複数の到達手段に関する達成基準
- 2.4.6 見出し及びラベルに関する達成基準
- 2.4.7 視覚的に認識可能なフォーカスに関する達成基準
- 3.1.2 部分的に用いられている言語に関する達成基準
- 3.2.3 一貫したナビゲーションに関する達成基準
- 3.2.4 一貫した識別性に関する達成基準
- 3.3.3 入力エラー修正方法の提示に関する達成基準
- 3.3.4 法的義務、金銭的取引、データー変更及び回答送信のエラー回避に関する達成基準
適合レベルAの時には非テキストコンテンツの扱い方に関する達成基準(画像にはalt属性を付けるなど)はありました。
適合レベルAAでは、文字は例外を除いて画像化しないことを目的とした達成基準が追加されています。
文字色も、文字サイズと関連してコントラスト比が定められているなど、条件が適合レベルAよりも細かく指定されています。
適合レベルAAA
レベル AAA で適合するには、ウェブページがレベル A、レベル AA、及びレベル AAA 達成基準のすべてを満たすか、又はレベル AAA に適合している代替版を提供する。
試験項目は以下の23項目です。
- 1.2.6 手話(収録済み)の達成基準
- 1.2.7 拡張音声解説(収録済み)の達成基準
- 1.2.8 メディアに対する代替コンテンツ(収録済み)の達成基準
- 1.2.9 音声だけ(ライブ)の達成基準
- 1.4.6 コントラスト(高度レベル)の達成基準
- 1.4.7 小さな背景音,又は背景音なしの達成基準
- 1.4.8 視覚的提示の達成基準
- 1.4.9 文字画像(例外なし)の達成基準
- 2.1.3 キーボード(例外なし)の達成基準
- 2.2.3 タイミング非依存の達成基準
- 2.2.4 割込みの達成基準
- 2.2.5 再認証の達成基準
- 2.3.2 3回のせん(閃)光の達成基準
- 2.4.8 現在位置の達成基準
- 2.4.9 リンクの目的(リンクだけ)の達成基準
- 2.4.10 セクション見出しの達成基準
- 3.1.3 一般的ではない用語の達成基準
- 3.1.4 略語の達成基準
- 3.1.5 読解レベルの達成基準
- 3.1.6 発音の達成基準
- 3.2.5 要求による変化の達成基準
- 3.3.5 ヘルプの達成基準
- 3.3.6 エラー回避(全て)の達成基準
音声コンテンツに対して手話通訳の提供を求めたり、略語や一般的でない用語についての達成基準が設けられたりしているなど、かなり高度な対応が求められます。
上記で挙げた通り、レベルによって試験の項目が違い、適合レベルAが一番簡単、適合レベルAAAが一番難しいです。
公共系のホームページでは、適合レベルAAを目標とすることが推奨されています。
適合レベルAAAは、コンテンツによっては達成することが困難なものもあるため、 適合レベルAAAを目標に設定して試験を行うことは滅多にありません。
適合レベルAAを目標としたうえで、「追加する達成基準」として適合レベルAAAの試験を一部実施する場合があります。
まとめ
適合レベルとして項目が定められているので、何をどこまで対応すればよいのかが一目瞭然で、チーム内の認識のズレが起こりにくいです。
また、高い適合レベルの試験を実施すればプロジェクトの結果が必ずしもよいものになるとは限りません。
今のサイトの現状をチェックして課題を洗い出し、スケジュールやコストも考えて、現実的な適合レベルを方針として設定することも大切です。
次回は 「対応度」と「方針を公開するかどうか」 についてご紹介します。
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